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[41758] 炎を隣に抱くもの(烈火の炎×GS美神)
Name: - 鴇時 -◆778081fd ID:60ccd5ed
Date: 2015/12/13 20:03
 注意

 この作品は二次創作投稿サイト、ハーメルン様でも掲載しています。
 烈火の炎とGS美神極楽大作戦のクロスオーバーですが、GS美神側は横島君しかでません。烈火の炎に来訪する形ではなく、烈火の炎に生まれた横島君のお話です。

 この作品にはYOKOSHIMA、綺麗な紅麗、オリジナル魔導具が含まれます。ご注意ください。



[41758] 紅麗の館編 不幸な少年
Name: - 鴇時 -◆778081fd ID:60ccd5ed
Date: 2015/12/13 20:05


 その少年は不幸であった。
一つ目の不幸は物心着く頃に両親を事故で亡くしたこと。
二つ目の不幸は引き取られたのが施設であること。その施設は虐待などもなく、ひもじい思いもしない。ただ、時々施設から引き取られたという言葉だけを残してこどもがいなくなることがあるだけだ。
そして三つめはある男に目をつけられたことである。その男は施設を支援し、慈善事業家として有名であり、世界的にも有名な財団の総帥をやっている。一見よくできた人間にも見える男だが、彼が施設で目を付けたこどもたちはことごとく“引き取られている”。男に目を付けられてからしばらく、少年は誰かによって“引き取られて”いった。
 施設の他のこどもにとってみれば、また一人“引き取られた”ということだけだ。しかし引き取られた本人の話はそこで終わらない。少年の不幸はまだ続く。四つ目、五つ目、六つ目とそれから先も少年に不幸な出来事は立て続けに襲い掛かった。
 その中で少年にとって幸いといえるものがあった。それは死ぬことがなかったこと。少年と同じような境遇にあるこどもたちは不幸の過程でその多くが命を落とした。死ぬことがなかったというのは幸いだろう。地獄が続く、という意味では不幸なのかもしれない。
 それでも、いま、少年は幸せだった。
 日常の中で死にそうになることはいまとなっては普通になっている。仲良くなった者を殺さなければならないこともあった。仲良くなった者を助けることなく無力を感じることもあった。それでもいまでは大切なものがあり、そのことに幸せを感じていた。

「お疲れさま。どうだった?」
「どうもこうもない。横島、殺されたいか?」
「そ、それはやめて!」
 不幸な少年の名前は横島忠夫。引き取られてから十年以上が過ぎ、彼は十七の頃まで成長していた。
「紅麗ってグラサン似合わないなー。ほれ、新しい仮面」
 横島に相対する青年は忌々しそうにサングラスを外すと、仮面を受け取って微妙な表情になる。それもそのはずで、その仮面はなぜか縁日で飾られているようなひょっとこ顔のお面だった。紅麗と呼ばれた青年はとりあえずその仮面を床にたたきつけた。
「それより、木蓮と小金井が例の少女を連れてきたらしい。お前相手をしておけ。俺は……用意をしておくべきものがある」
「用意? まあ、いいけど。爺の話でいいの?」
「ああ。ただし、丁重に扱え。一応客人……だからな」
「りょーかい」
 紅麗は、話は終わったとばかりに懐からいつもの仮面をつけると、部屋を出ていくのであった。横島はやれやれと肩を竦めると下にたたきつけられたひょっとこの仮面についたほこりを丁寧に払って机の上に置く。

「お嬢ちゃん、目が覚めた?」
「え、誰ですか……あなた?」
 横島と紅麗がいた部屋から遠く離れた部屋で、目が覚めた少女に声をかける。少女は突然あらわれた横島に警戒している様子で部屋の隅に小さくなって震えていた。
「うわー、そこまで怯えられちゃうとさすがに傷つくよ。まあ、とりあえず何がなにやらわからないだろうから知りたいのなら着いてきて。このままここにいたら風邪ひいちゃうかもしれないし。あー、でも……逃げようだなんて思わないでね? ここからは絶対に逃げられないから」
 怯えられたことに苦笑するが、そのままその部屋から出ていく。少女は終始笑顔の横島に戸惑うと同時に、少し警戒心が薄れる。このままここにいても何もわからないため、震える身体を抑えつけ、横島のあとを着いていく。
 着いたのは先ほど紅麗と話していた大きな部屋。大きなソファにシャンデリア、壁に飾られた額縁には横島を引き取ったあの男の写真がでかでかと飾られている。
「うわー、ずいぶん警戒されちゃったなー。とりあえずオレンジジュースでも飲んで一度落ち着く?」
「わたしはこどもじゃありません!」
「あり、オレンジジュース嫌いだった? 小金井は喜ぶんだけどなー。んー、じゃあまずは悪かった」
 ぷりぷりとかわいらしく怒る少女に気まずそうに頬をかき、知り合いの少年がオレンジジュースにはしゃぐ姿を思い浮かべて首をかしげ、そして頭を下げた。
「へ? 別にこども扱いされたくらいで頭を下げてほしいなんて思いません!」
「いや、そうじゃなくてここに連れてくるときのこと。本当は誰も傷つけるなって命令されていたはずなんだけど一人バカがいてさ。とりあえず怪我した女の人は助かったらしいから安心してよ」
「立迫先生の奥さんが……よかった。あの、聞いてもいいですか?」
「ああ、このお額縁? この屋敷の持ち主。ニュースとかでみたことない? 森光蘭っていう名前なんだけど、実業家でさ、この顔でいろいろ慈善活動しているんだよね。まあ、一代で巨万の富を築くなんていくら実業家だっていっても無理だからね。慈善家としての顔には裏の顔もあるってわけだ。君を連れてこいっていうのもこのおっさんの命令」
「なんでわたしなんか……」
「この動画、わかる?」
 彫刻の目から光が壁に向かって放たれる。光は動画となってある光景を映し出した。
どうやら彫刻はプロジェクターの役割も持っているようだ。横島には彫刻をプロジェクターにする意味はさっぱりだったが、見た目の割に機能が充実しているため、借りてきた映画は何かとこの彫刻型プロジェクターでみていたりする。
 彫刻型プロジェクターによって映し出された光景は少女が少年を治療している姿だった。少女は少年の患部に手を当てるだけで手元が輝き、少年の傷は癒えていった。本来の治療では絶対にありえないまさしくファンタジーな光景であった。
「どうして……これ」
「君たちが騒ぎを起こしたあの遊園地、系列がウチなんだ。監視カメラの映像に残っていたよ。こどもじゃないんだから我慢すればいいのにさー。欲しいものは全部手に入れようとするんだ、あのおっさん。でも一生に手に入れられるものは限られているだろ? 最終的に何を求めたと思う?」
「わからないです」
「不老不死。バカでしょ? そんなファンタジーなことがあるわけないのにさ。でも、見つかった。見つかっちゃったんだよね。不老不死の手がかり。それがこれね」
 リピート再生されている治癒の映像を指さして言う。
「お嬢ちゃんのその力。不老不死のヒントになる、そう思って君を誘拐したんだ。まあ、これからたいへんだけど諦めてよ」
「そんなこと知りません! わたしはそんなことのために!」
「はいはい、興奮しない。とりあえずいまはゆっくり休みなよ」
「え、ああ……?」
 頭の上にポン、手を置かれた少女はそのまま意識を失う。横島はとりあえず少女を抱きかかえ、密かにその感触を味わいながらもソファに寝かすのだった。
「小金井、そこにいるだろ?」
「あり、バレてた? それより俺はオレンジジュースで喜ぶようなこどもじゃないからね!!」
 ひょいっと扉の裏から顔を出したのは小学生くらいのこどもだった。髪の毛を逆立てた小柄な少年は、先ほどの光景を見ていたのか少女の飲まなかったオレンジジュースをチラチラ物欲しそうにみながら怒って言った
「はいはい。とりあえずこの子、連れてきたおっさんとは違う部屋に運んどいてくれよ。本当は紅麗の仕事なのになんで俺だけ……」
「えー、やだよ。木蓮と一緒にこのお姉ちゃん攫ってきて疲れているんだもん。それより紅麗はー?」
「あいつはあいつで何か準備があるんだと。俺はこれから磁生に呼ばれているからあまり時間かけられないんだよね。そんなチラチラ見なくてもあとでジュースなら奢ってやるからさ」
「100%ジュースだからね!」
「へいへい。あ、ちゃんと風邪をひかないように暖房設備がある部屋に運べよ? 何もない部屋はあのおっさんでいいや」
「忠夫兄ちゃん、相変わらずだね。じゃあ、あとは俺がやっておくから行って来なよ」
「じゃあ、よろしくー」

「で、磁生は何の用なんだよ。俺、これでもいろいろやることがあるんだけど……」
「お前がやることなんてどうせいつものくだらないことだろ。いいから飲みに付き合えよ」
 小金井にあとを頼み、やって来たのは居酒屋。顔なじみの店員にあいさつをしたり、かわいい女の子に声をかけたり、かなりの時間をかけながら奥のほうの個室へ進む。
待っていたのは大柄なおっさんだった。ビール片手に横島を出迎えた磁生という男は、年齢こそ離れていても、友人のような関係である。
「俺はいつでも好き勝手できるおっさんとは違うんだよ!」
「だからお前も麗に入れよ。いつまでもその立場のままじゃお金も足りねーだろ。ちなみに今日は割り勘な」
 皿に盛られたタコワサビを口に運んでいた横島の箸がピタッと止まる。
 友人関係にある二人だが、その立場は大きく異なる。横島と磁生は同じ、森光蘭を首領とする組織に所属している。その仕事は森の欲望を満たすために多岐にわたる。
森は欲望を満たすために横島と同じように多くのこどもを引き取っているのだが、その中でも紅麗は正式に養子として引き取られており、その立場は森に次ぐ。磁生はこの紅麗直属の部下であり、組織の中でもかなり上の立場にあるのだ。対して横島はいまでも森に引き取られたこどもAのまま。立場的には下の下である。それでも紅麗や磁生と対等に口を利いているあたり、もかなり特殊ともいえるが。
「お金が足りないってわかっているのならなんで今日割り勘なんだよ! 俺は呼ばれた立場だし、それくらい払ってくれよ!」
「じゃあ忠夫も紅麗様の部下になれ! お前なら音遠も雷覇も文句言わないだろうよ。いきなり十神衆は無理にしてもせめて麗に所属してはみねーか?」
「いまでも紅麗に扱き使われているのに部下なんぞになったら俺は過労で倒れるかもしれん! 絶対嫌だ!」
 断固として拒否の姿勢を貫く横島。割り勘とわかり、財布を取りだして中身を確認してからは遠慮なく食べることにしたようで、磁生の誘いには拒否の姿勢を貫きながらももぐもぐと磁生の頼んだつまみをバクバクと食べている。
 結局横島と磁生はこの日、ここで一晩過ごすことになるのだった。



* * * * * *

ご感想、誤字脱字、用法間違いのご指摘お待ちしております。




[41758] 裏武闘殺陣編 裏武闘殺陣!!
Name: - 鴇時 -◆778081fd ID:60ccd5ed
Date: 2015/12/13 23:38
「で、どうなったの?」
「黙れ、殺されたいか?」
 酔った磁生に付き合った日から数日後、横島はある屋敷に来ていた。あのあとも様々な立場の人物から様々などうでもいい仕事を押し付けられて休む暇もなかった横島は紅麗に呼び出されて久々に身体を休めていた。
「呼び出しておいてそれかよ。で、そんなに小金井が離れたことが気になるか?」
 磁生の飲みに付き合ったあの日、小金井は紅麗の元から離れた。
紅麗は日頃、感情を表に出すことはない。全てに対し非情に接し、心の内には何も入れない。横島は紅麗がここまで非情な性格になる前から付き合いがあるためか、その表には出さない心の内を察することができた。
小金井は立場こそ麗の兵隊にもなれない麗予備軍であるが、それはまだ年齢が足りていないからであり、その実力はとても高い。その理由は小金井が紅麗と近しい関係にあるからである。小金井がいまよりさらに幼い頃、彼は紅麗と出会った。まだ麗ができる前のことだ。それから小金井は紅麗から戦い方や勉強など、様々なことを学んだ。横島からしてみれば二人の関係はまるで兄弟のようだったのだ。
「俺には関係ないことだ。それより裏武闘殺陣を執り行う。準備しろ」
「何のために?」
「治癒の少女を手に入れるために」
「そうか」
 まるで小金井の話をすることが嫌なように突然話を帰る。横島には、その姿が意地を張っているようにしかみえなかった。横島に対してでも、意地を張って自分の本当の気持ちを隠す紅麗の姿に、少し寂しく思う。
「それと今回、お前には麗として出てもらう」
「は? 俺麗じゃないんだけど……」
「父にはもう裏武闘殺陣を手配してもらった。今回念には念を入れる必要がある。拒否権はない。チームはこちらで決める」
 裏武闘殺陣。森がある目的のために開催している裏世界の武闘大会である。その莫大な金にものをいわせ、殺人すらも罪に問われない。この大会に参加するチームは負けたと時、ペナルティーとして主催者に貢物を捧げなければならない。紅麗はこのルールを利用しようと考えているようだ。
 横島としては痛いのは嫌だし、目立つのも嫌なため、是非とも拒否させていただきたいのだが、紅麗が横島に直接話をする場合は拒否することができないようになっていることがほとんどである。部下ではないが、立場上断ることが難しいということもある。
 小金井のことで、紅麗の心を考えた横島は、ため息をついて準備をすることにしたのだった。
「そういえばジョーカーは?」
「今回は十神衆も何人か出る。だがあいつが出るかどうかは本人次第だ。出る気になれば出るだろう」
「あ、そう」
 紅麗から本人の意思を任されているジョーカーの扱いと、強制的に出場が決定された自分との差に何か釈然としないよう気持ちを抱く。文句を言えば磁生と同じような返しをされることがわかっていたために黙っていた。磁生なら、酒を片手に軽く誘われる程度であるため、気楽に断れる。しかし紅麗は威圧感を込めて話すため、かなり断り辛い。また、紅麗の力なら無理やりにでも部下にすることができるため、文句を言うことはできなかった。
「いつまでもずっと同じ場所にいることはできない」
「へいへい、わかっていますよー」

 裏武闘殺陣の会場はC県の私有地とされる場所にある。当然森の買い取った土地である。
 紅麗に言われてから準備に雑用に追われているうちに大会開催日にまで時間が経った。
「で、俺は何でお前と一緒なんだ?」
「やっと麗に入ってくれることになったんですね! いつも磁生さんや音遠さんと話していたんですよ。紅麗様も言っていないだけで気持ちは同じはずです!」
 その会場、待機室に横島はいた。紅麗によって決められた横島のチームは数ある麗のチームの一つだ。隣に立つのはそのチームのリーダーである青年。人懐っこい笑顔を浮かべ、嬉しそうに横島に話しかけるその姿はあまりたよりになりそうではない。
「いや、その紅麗から無理やり編成されたんだよ。俺は麗じゃないのに……」
「ボクは嬉しいですけどね。このまま麗に入っちゃいましょうよ。忠夫君ならバッチグーです!」
「なにがだよ……」
 彼、雷覇は親指を突き立てて笑う。
 彼らのチーム名は麗(雷)。雷覇をチームリーダーとするチームであり、構成員は雷覇と横島のたった二人。この大会の最大チームは五人。全チームの中でも最も少ないチーム構成である。
「そういえば聞きました?」
「ああ、あのお嬢ちゃんたちのチームのこと? あんな派手なことをしたらね。でも麗予備軍にも劣る程度が二十人なら小金井でもできるぞ。紅麗一人でも勝てるだろ」
「それでも、強くないと面白くないじゃないですか」
「そういうものかねー」
 参加総チーム六十四。A~Dの四つのブロックに分かれ、優勝のためには六回勝たなければならない。大会を盛り上げるための参加とはいえ、横島にとっても厳しい戦いが始まる。
「じゃあ一緒に頑張りましょう!」
「ギブアップは」
「もちろんダメです!」
 にっこりとそう笑う姿に横島はげんなりとするしかなかった。

 麗(雷)はBブロックとなった。麗チームは何チームもいるからか同じブロックに他の麗のチームがある。幸い紅麗のチーム、麗(紅)はDブロックにいる。決勝までは戦うことがないと知り、横島だけでなく雷覇も安心した表情を浮かべた。横島は単純に嫌だから。雷覇は部下として紅麗に忠誠を誓っているために進んで戦いたいとは思わないからという理由がある。
『お前ら、盛り上がっているかー!! このBブロック会場、一日目の審判はこの魅鳥が担当するぜ!! それじゃあ始めるぞ!!』
 Bブロック会場の真ん中に現れたのは背中に翼の飾りを身に着けたガラの悪い少女。裏武闘殺陣では十二支を担当する少女がそれぞれの試合の審判をする。この魅鳥と名乗った少女はその中で酉を担当する少女、クールなナイスガールだ。
『そのBブロック第一回戦、第一試合を飾るのは、大会初出場! チームリーダー影を中心とした五人組! チーム闇入道!!』
 魅鳥の紹介とともにあらわれたのは黒尽くめの格好をした長髪の男を先頭とした五人組だった。チーム全員が黒っぽい服装をしており、どんな表情をしているのか、どんな人間なのか全くわからない。場所が場所だから会場は盛り上がっているが、普通にいたら通報されるくらい怪しい。
『対するチームは今大会最も少人数での登録だ! 頼りなさそうで守ってあげたい笑顔の雷覇。チーム麗(雷)!! 全大会優勝の麗(紅)と同じ、麗のチームだ! いきなりの優勝候補だ! 人数が異なるから第一試合は勝ちぬき戦だ! 一体どんな戦いをみせるのか、非常に楽しみだぜ!!』
「ヒヒヒ。たった二人で俺らに勝つつもりか? 面白い冗談だ。影、俺からやらせてくれよ。俺だけでパパッと二人とも片付けてやるよ」
「……任せる」
 闇入道のうち、何の模様もない、真黒な仮面を身に着けた長髪の男が前へ出る。
「どうします?」
「俺はいーや。雷覇、頼む」
「いいですけど、このままでないのはだめですよ?」
「はっはっは、そんなわけあるわけないじゃんか。雷覇は変なこと言うなぁ。はっはっは」
 冷や汗だらだらと笑う。実際雷覇一人でもそこらのチームには負けないといってもいいほどの実力があるため、出る必要はないかもしれない。図星を指されながらもあわよくばこのまま一度も出なければいいな、と思っている横島だった。
『闇入道、麗(雷)、リングの上へ! Bブロック第一試合、第一回戦! 暗闇VS雷覇、試合……開始!!』
 リングの上に二人が立つのを待ち、Bブロックの第一試合が始まった。

 裏武闘殺陣の二日目が終わった。雷覇と横島は第二回戦を勝ち抜け、第三回戦に備えて準備をしていた。
 第一回戦、黒尽くめの格好の集団、闇入道との戦いは一方的だった。余裕綽々な様子で出てきた先鋒の暗闇は、その態度とは反対に非常に弱かった。身体中に隠し持った暗器を繰り出すという先鋒だったが、武器の数はともかく、その腕は悪く、一度も攻撃をかすらせることができずに意識を失うことになった。
 暗闇を倒したことで警戒したのか次鋒として出てきた相手は腰が引けて負け、中堅、副将も同じく。最後の最後、もったいぶって出てきた闇入道のチームリーダー、影に至っては、雷覇が何かをする前に勝てないと判断し、降参した。
 一日目の試合はなんとも締まらない形で終わった。
 そして二回戦、麗(雷)はまたしても横島はでず、雷覇が試合に出た。結果は言うまでもなく、敵チーム全員を全滅させた。武器一つ使わず、素手で怪我一つさせずに相手の意識を奪った雷覇は、その雰囲気や表情からは計り知れないほどの実力があることがわかる。
 そんな彼らはいま、出場者全員に与えられる控室で深刻な雰囲気でうつむいていた。その理由はDブロック第二回戦、第二試合にあった。
「Aブロックのチームに、小金井君がいたらしいですね」
「紅麗があんなはっちゃけたのはそれが理由か」
 Dブロック第二回戦、麗(紅)と5Dの試合。麗(紅)から出てきたのはたった一人、紅麗だった。
彼が注目しているチームであり、治癒の少女がいるAブロックの火影が麗のチームの一つ、麗(幻)を打ち破った。そしてその火影というチームには小金井がチームメンバーとして参加していた。
 このことから紅麗はその試合ではっちゃけた。笑いながら敵の5D全員をその炎で炭も残らないほど無残に殺した。紅麗をあまりよく知らない者は、注目する火影が成長したことに対してテンションが上がったと解釈した。横島たちは試合中だったため直接見ることはできなかったが、試合中、その解釈の通りの発言をしていたらしい。しかしその話を聞いた二人の解釈は異なる。
「忠夫君、いま、紅麗様は?」
「部屋に行ったらいなかった。いまはたぶん月ノ宮に」
「そう、ですか……」
 雷覇は深刻そうな顔でうつむいた。その顔には心配そうな色が浮かんでいる。
 雷覇と、横島が紅麗のその話を聞いたとき、まず紅麗を心配した。紅麗が感情を露わにすることはほとんどない。裏武闘殺陣の第一回開催から出場しているが、観客をより盛り上げるためのパフォーマンスとして派手な試合をしたことはあるが、感情のままにその力を振る舞うことはなかった。
 だからこそいまの紅麗の精神状態は非常に危うい、そう思った。
 紅麗がいま訪れているという月ノ宮という場所には彼にとってこの世界で誰よりも大切に思う存在がいる。そして月ノ宮を訪れる時、紅麗は心が不安定になっていることが多い。
 雷覇はいますぐにでも紅麗の元へかけつけたかった。
「忠夫君、次の試合、お任せしてもよろしいでしょうか?」
「しょうがないだろ。わかった。試合は適当に負けて……」
「それはだめです。次勝てばそのあとはボクも戦いたいんですから」
「わかった。勝つから! 近いから! そんなことを言うのなら紅麗は任せたぞ!」
「はい、もちろんです!!」
 裏武闘殺陣の二日目が終わる。様々な思惑が絡み、Bブロックの試合も残り二試合。雷覇のいない三日目が始まる。



* * * * *

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[41758] 裏武闘殺陣編 横島VS鎖悪架子!
Name: - 鴇時 -◆778081fd ID:60ccd5ed
Date: 2015/12/13 23:37

『Bブロック三日目、第一試合を開始するよ。審判はこの虎葉だ。二回の激戦を勝ち抜いてこのリングに立つのはこの二チーム』
 三日目、Bブロック会場。虎柄ビキニ、長めの前髪で片目が隠れた少女である審判の虎葉がリングの上で淡々とチームを紹介する。
『全大会のリベンジのために参戦。元々は三人のチームでしたが、二回戦でメンバーの骸悪が戦死してしまい、たった二人だけのチームに。鎖悪架子!!』
 あらわれたのは顔に大きな傷を負った青年と、彼に付き従う狐目の青年のたった二人。元々は三人での登録だった。しかし二回戦で激戦の後、メンバーの一人が命を失った。強者が集まる大会とはいえ、名もない敗退チームによって命を失う程度の実力。勝ち上がってはいても、実力は足りず、身体もボロボロ、優勝することは不可能である。
 それでも、彼らはリングの上に立つ。目的のために。
『対するチームは大会中最も少人数での登録。一回戦二回戦ともにチームリーダー雷覇たった一人で敵チーム全員を撃破したため実質一人でもいいと思うんだけど。麗(雷)!!』
 鎖悪架子の向かいに立つのはたった一人。一回戦、二回戦の敵チームをたった一人で武器も使わずに撃破し、勝利した。そんな雷覇をリング端でのんびりと眺めていただけの青年、横島忠夫。
 三回戦ともなると、観客の中には頼りなさそうな外見と、その外見に反する実力とのギャップで、男女問わず雷覇の戦いを見に来たものは多くいる。そして雷覇のファンになればそれだけ、何もしない足手まといな横島を蔑む者が増える。結果として、リングの上にたった一人で上がってきた横島へ多くのゴミが投げられるのだった。
『あー、観客が質問したいみたいだから聞くけど、チームリーダーはどうした?』
「そ、その前にこのゴミを……ふべぇ!! 俺だってチームメンバーなのに、なんでこんな扱いなんだ! 虎のねーちゃんなんとかしてー」
 ゴミだけでなく、中身が入った缶まで飛んで来る。人から人へ、横島を気に入らない観客の騒ぎはより大きく広まっていた。これが一回戦の審判をした魅鳥であれば一喝、観客を黙らせたりすることもあったのだろうが、この虎葉という少女は自分さえ被害を受けなければいいという風にゴミが飛んでこない場所に避難するだけで、止めることはなかった。
 そんな彼女にしがみつくほどに頼み倒す横島の姿は、いままで雷覇任せだったということもあって非常に情けない。観客の騒ぎをより大きくさせるだけだった。
「やめないか!!」
 シン――
 場を収めたのは審判である虎葉でも、当事者である横島でもなかった。多くの観客が怒号を上げる中、その観客の声を覆うようにして一喝、黙らせた。マイクなども持たない彼はその声量と、その声に込められた意思によって観客を黙らせた。並大抵の人間にできることではない。
「彼は敵で、そして憎き麗のチームの一人だが、それも理由があってのことだろう。君らに彼を非難する資格はないよ。こうしてリングの上に立った以上、誰であれ皆平等だ」
 観客を黙らせた彼、鎖悪架子のチームリーダーである夜子魯は静かにそう言った。
「では、審判。試合の進行を頼む」
『悪いねー。でも、わたしも気になるし、聞いていい? なんで一人なんだ?』
「よ、よかったー。うへぇ、頭がゴミだらけ。雷覇がいないのは用事があるんすよ。だから今日は俺一人。なのにどうしてこんな目に合わないといかんのや……」
『たった二人なのに余裕だねー。じゃあ、試合を開始するよ。両者、リングの上に!! Bブロック第三回戦第一試合、鎖悪架子VS麗(雷)。試合開始!!』
 雷覇のいない、横島にとって初試合ともいえる試合が始まった。
 先鋒は一人しかいないため、麗(雷)は当然のように横島が出る。そして鎖悪架子チームリーダーではなく、狐目の青年、千鎖だった。
 細身で飄々と立つ千鎖は身の丈を超える長い槍を持ってリングの上に立つ。
「先ほどは大変だったなー。俺っちとしては、今日いない雷覇っていうのとも戦いたかったんだけどな。まあ、簡単に勝たせてもらうなら、それでいいんだけどさ。あんた、なんか麗っぽくないからな。まあ、おしゃべりはここまでにしようや。サクっとな」
「いやー、俺としてはずっと話しているのもアリかなー。いや、危なっ!!」
 瞬間的に加速した千鎖の槍が横島を襲う。先ほどまで構えることもなく、ただ立っているだけだった。それが次の瞬間には槍を横島に突きだした形で静止していた。
「へー、あれを避けるのか。初見ではあまり避けられたことなかったのになー。あんた、意外と実力ある?」
「いきなり襲ってきてそれかい! 少しくらい手加減とかって……」
「するわけねーって。じゃあ、ガンガンいくぜ?」
 一度距離を空けた千鎖は手に持った槍を握り、地面に伏せるようにして態勢を低くする。より速く、鋭くを追求したその構えには隙はみられない。
 対する横島といえば特に構えることなく、ボーっと突っ立っている。ポケットにこそ手を突っ込んでいないが、先ほど完璧に槍を避けたとは思えないほどに隙だらけである。
 横島以外の誰もがこの光景を見て千鎖が勝った、とそう思った。横島をなめている観客はもちろんのこと、先ほど槍を避けられた千鎖でさえも。槍をどう避けられたのかということも考えずに、ただ目の前の横島の姿を見るだけで観客と同じように無意識の中で彼を格下とした。
 それが彼の敗因だ。
「行くぜ?」
「どうやって?」
「え……?」
 横島のその答えを不思議に思うことなく、千鎖の身体が大きな音を立てて地面に倒れ伏す。動かすことができる場所は首のみ。腕も、足も、まるで何かに縫い付けられているかのように動かすことはできない。
 横島は倒れ伏した千鎖の前に立ち、転がっていた千鎖の槍を拾い上げる。
「何をしたんだ?」
「降参、するか?」
 横島は槍を弄びながら首だけを動かして覗き見る千鎖に質問する。小学生がほうきを掌に立たせてバランスを取るように、槍を指の上に立てて器用にバランスを取る姿は、まるでサーカスのピエロのようだ。
「降参だ」
 千鎖からその言葉が出た瞬間、千鎖はいままでが嘘かのように立ち上がる。地面に縫い付けられていたからか少し節々に痛みを感じるものの、身体に異常はみられない。
 不思議そうに身体を確かめる千鎖を余所に、二人は一度リングの上から降りる。
「悪い、負けちまった。からくりもわからなかった」
「いや、俺も意識のどこかで彼を格下だと思っていた。死なないでくれてよかった。あとは俺に任せてくれ。なんとか勝ってくる」
 申し訳なさそうに戻ってきた千鎖の肩を叩き、夜子魯は言う。試合前のやり取りから、そして試合中の動きから横島をただの雑魚と思ってしまった。いくら隙のない構えだろうと心に隙がある以上、それがそのまま戦いにあらわれる。
 ありえないことだが、もし千鎖が戦ったのが紅麗だったならば、その身体はリングの上から降りることはできなかっただろう。リングの上で、命が尽きるという形で。その意味では、怪我一つなく負けることとなった千鎖は幸いだったといえる。
『何が起こったんですかね。ま、いーや。意外にも勝利したのは横島忠夫! だけどチームがたった一人しかいない以上、次の夜子魯が勝てば鎖悪架子の勝利となります。では、開始!!』
 千鎖に代わり、リングの上に上がる夜子魯。一度リングから降り、簡単に身体をほぐしていた横島もまた、リングの上に上がる。
 今度は観客たちも、横島を蔑む声はあがらない。何の役にも立たない、雷覇の腰巾着としか思っていなかった横島が、たった一度槍を躱したかと思えばそのまま勝利したのだ。いまもそこらへんにいる普通の青年にしか見えない彼が、どうみても実力者の千鎖に勝ったという異様さが、観客たちを黙らせていた。
「悪かった! 俺はどこかで君を見下していたよ。簡単に勝てる、とな。今度は見下さずに相手する。君も麗なのだな。よろしく頼むぞ」
「うわー、俺勝てるかな」
 真摯に横島に頭を下げるその姿にはもう横島を下に見るという姿勢は見られない。だからといって警戒しすぎて腰が引けることもなく、ただ純粋に戦うという姿はかなり自然である。
「では、参る!!」
 千鎖が身体を動かせなくなった理由もわからなかったため、夜子魯は無暗に近づくことはしない。近づいて攻撃する代わりに、彼が取り出したのは弓だった。
「この距離で、弓?」
 横島を見据え、弓を構える。そして矢を取り出し、弦を強く後ろに引く。まっすぐにのばされた腕は一切のブレがなく、弦を引くその腕は会場を照らすライトを鈍く反射する。彼の右腕は、肩から先の全てが機械の義手となっていた。
「ハッ!!」
 機械の腕によって強く引かれた弦は、セットされた矢を強く前へ押し出す。勢いよく放たれた矢は狙い寸分違わず横島の額へと向かう。
「いきなり急所狙い!? 正々堂々はどこ行ったんじゃ!!」
「真剣に戦うと言ったからには言葉に沿う戦い方をしなければね。それに、千鎖のあの槍を躱した君がこんな目に見えた矢を躱せないとは思えないから」
「はは、そっすか」
 夜子魯は笑いながら続けて矢を放つ。そのどれもが当たれば軽く人体を貫くような威力を持つ。機械の腕によって引かれた弦から放たれるその矢は、避ける横島を追うようにして空間を突き抜ける。
 その絶えない攻撃に、横島は攻勢にでることができない。ただ、その場に留まって矢を避けるのみだ。なるべく大きく無駄に動くことで夜子魯に先読みされないようにする。ただ、いまは矢が尽きるのを待つのみ。
「矢が尽きるのは期待しない方がいい。この矢は特別製でね、放っても何度も戻って来るんだ」
見れば放たれてリングの石を抉り突き刺さったはずの矢は見当たらない。あるのはただ壊れたリングだけだ。
 放たれた矢が自然に手元に戻って来るということは本来ならありえないことだ。それがありえている。それが事実。その秘密は彼の持つ矢にあった。
 彼の持つ弓矢の名前は明王。魔導具である。魔導具とは四百年前に創り出されたという特別な力を持つ特別な道具である。魔力を核とするその道具は多岐にわたり、その多くが武器という形をとっている。明王の持つ力は単純、放たれた矢が手元に戻って来る。それだけだ。しかし弓矢として、矢が尽きないことほど便利なことはない。そして弓矢としての性能もまた、高い。固く、太い弦によって放たれる矢の威力は岩をも穿ち、金属にも傷をつける。その分、力と技術を必要とする扱いの難しい武器である。そして、彼は技術を持ち、機械の腕によって力もクリアしている。魔導具の中でもあまりつかわれない粗悪物という扱いではあるが、夜子魯によって明王は敵を近づけさせない強力な武器へと変わった。
「その腕、魔導具のために?」
「いや、違うよ。これは、前回の大会でね。君も麗なら知っているだろう。この腕を奪ったのは紅麗、麗のリーダーだよ。そして、今回俺たちがこの大会に出場したのは、紅麗に復讐するため」
 裏武闘殺陣は今回で三回目の開催になる。前回の大会が開かれたのは四年前のことだ。当時、鎖悪架子のメンバーは四人いた。チームリーダーの夜子魯、槍使いの千鎖、今大会の二回戦で命を落とすことになってしまった|骸悪《ガイア》、紅一点の架凜。力比べとして大会に参加した彼らは順調に勝ち進んでいった。当時は使うことはできなかったが、明王もまた前回の大会で手に入れたものだ。彼らが壁に当たったのはBブロック代表決定戦。相手チームは麗(紅)。負けたのは鎖悪架子だ。負けただけでなく彼らはそのチームの一人を失った。夜子魯は紅麗によって右腕を失い、続く千鎖、骸も敗退した。既に負けが決定した中でも架凜は仲間の奮闘を目にして諦めずにリングの上に立った。そして、対戦相手の呪によって、彼女は殺された。助けに行くには実力も、時間も足りず、仲間の悲鳴が響く中、架凜は無残にも殺された。
 そして今回、彼らは己を鍛えなおし、今大会に出場した。全ては架凜の無念を晴らすために。紅麗に復讐するために。
「そうか」
「だからこそ俺はここで負けるわけにはいかない。このままでは決勝に行くこともできないかもしれない。でも、死ぬ寸前まで懸命に戦った架凜のためにも最後まで俺は諦めない」
「……」
 横島はその言葉に何も返さない。夜子魯の決意を聞いても、戦う理由を聞いても、横島の表情は何も変化しなかった。ただ淡々とその言葉を聞くのみ。
「悪いけど、あんたらを勝たすわけにはいかねーわ」
「そうか、そうだろうな。だけど、この矢をどうにかしないことには、勝つこともできないぞ!!」
 横島の急所を正確に狙って放たれていた矢の速度が変わる。狙いが少し粗くても当たればいいというばかりに放たれる矢に、徐々に追い詰められていく。リング場外は失格にこそならないが、基本的にはアウトだ。狭いリングの中で雨のように飛んで来る矢を避けなければならない。
「なに!?」
 いままでまるで分身しているかの如く、全ての矢を避けていた横島が突然身体の動きを止める。矢が当たって動きが鈍ったわけではない。服が縫い付けられたわけでもない。ただ、その動きを止めた。当然のように雨のような矢は全て動きを止めた横島の身体へ向かう。
 避けることもせずにその場に立っていた横島に矢が刺さり、土煙とともにその身体が隠れる。突然身体の動きを止めた横島を不可解に思いながらも矢を当てた手ごたえを感じた夜子魯は弓矢の攻撃を止めた。
 土煙が晴れ、横島の姿が現れる。そこにいたのは大量の矢を防ぎ切った、いや、一本だけ頭に突き刺さってぴゅーぴゅーと血が噴き出ている。
「ふ、防ぎ切った!?」
 防ぎ切った扱いで対応してくれるあたり、夜子魯も優しい。横島は頭に刺さった矢を抜き、何もなかったかのように立つ。頭から流れた血で顔は真っ赤だが、その姿はまるで本当に全ての矢を防ぎ切ったかのようだ。
「魔導具か」
「そ、その弓矢と同じだ。魔導具が魔力を核にしていることは知っているだろ? この魔導具、魔円は魔力を固めて円を作るそれだけの武器だ。でも、コツさえ掴めれば、こうして矢を全て防ぎきることができるってわけだ。そして……」
 矢を防ぐために身体を隠せるほどの大きさだった魔円を作り出した円を、手のひらに収まる程度の大きさに縮める。そして大きく振りかぶり、投合! 円盤はまっすぐに夜子魯に向かっていく。
「こうして投げることもできるんだ」
 夜子魯が魔円を避けた時、横島は既に夜子魯の後ろに立っていた。
「身体が重い。近づかないように気を付けていたはずなのにいつの間にか側に立たれているなんてな。千鎖の動きを封じたのもこれか?」
 千鎖のように地面に縫い付けられることはなかったが、突如身体が重くなるという事態にどうすることもできない夜子魯。彼が指したのは彼の懐にある不自然なふくらみだった
「そう。重石っていう魔導具。触れた物の重さを帰る魔導具。人には使えないから、服に入れないと意味がないんだけど、こうしてなんとかできてよかったー」
「動けない、ということはないがこの重石を取り出すまでにやられるか。降参だ。俺の負けだ」
 汗をだらだらと流して重石の重みに耐える。しかし、勝負は決した。雷覇ありきのチームだと思われていた麗(雷)のもう一人は鎖悪架子を撃破し、Bブロック代表決定戦へとコマを進めたのだった。




* * * * * *

 ご感想、誤字脱字、用法間違いなどお待ちしております。



[41758] 裏武闘殺陣編 誓いの血判
Name: - 鴇時 -◆778081fd ID:60ccd5ed
Date: 2015/12/21 04:47

「はあ、はあ、はあ……こんなこども相手に本気になるなんて大人げないぞ!!」
 少年は床に座り込んで、息を荒く相手をにらみつける。
「ずっと逃げて一度もこっちの攻撃当たってねーだろ。文句言うな。俺は十神衆なんだぞ。修行をつけてもらえるんだ、感謝しろよ!」
「突然呼ばれて襲い掛かってきたくせに無茶苦茶言うな!!」
「まあいいじゃないですか。仲良くしましょうよ」
 ここでは先ほどまである戦いが行われていた。戦いというには一方的なものだ。片方は大きな二本の刀を両手に持った大男。片方はまだ中学生になるかどうかというほどの少年だ。
 年齢の差もあったが、何より実力に大きな隔たりがある。たとえ少年が拳銃を持っていたとしてもこの大男には傷一つつけることができない。彼らの実力はそこまで差があった。
 それほどまでに実力が離れているからこそ、少年、横島は疲労に倒れ、大男、磁生はその様子を見て笑っている。だが、磁生はもちろん、横島にも傷はなかった。生き残る、というただ一点において、彼は磁生にも勝る力を持っているのだろう。
「うるせー! 雷覇、そんな人畜無害そうな顔をしておいて、目の前でこどもがおっさんに殺されそうになっているのになんで止めないんだよ!!」
「本当に死にそうだったら止めましたけど、必要なかったじゃないですか」
 にこにこと二人のやり取りを見て笑う青年、雷覇はなんでもないかのようにそう言った。
「そもそも、今日は別の用件があって呼んだんじゃなかったのか。わたしは暇じゃないんだけど。こんなお遊びに何の意味があるんだ?」
「いや、お前らにこいつの実力を認識してもらおうって思って……あ、実力はなかったか。とりあえずただの下っ端じゃないことはわかっただろ?」
「僕は忠夫君のことは知っていましたし、音遠も初めてではないでしょう? 何より、わざわざこの三人を集めたということは、これに関係があるということじゃないですか?」
 そう言って雷覇が取り出したのは一枚の紙だった。そこには赤い文字で磁生、雷覇、音遠の名が並べて記されていた。
 この三人は所属こそ麗の十神衆として紅麗に仕えているが、互いに気に食わないこともあり、実力もそれぞれ異なる。年齢も性格も合わない。そんな彼らがこうして一枚の紙に名前を記しているのは互いを認め、同じ志を持つからである。
 麗と一つにまとめられてこそいるが、組織として当然それぞれ立場が異なる。紅麗の手足として直属の部下であり、麗の幹部ともいえる十神衆。その十神衆に仕える麗兵隊。麗の中でも実力や年齢が達していない麗予備軍。紅麗を首領として成り立つ組織でこそあるが、そこには多くの思想が渦巻く。
 そんな中で、彼らの三人は、三人だけはその命を紅麗に捧げ、忠誠を誓う存在である。この一枚の紙に彼らそれぞれの血で記された名前はその誓いを共にすることを意味する。
「雷覇、あんたそれ……」
「磁生に言われたから持ってきましたが、忠夫君をここに?」
「ふざけんじゃないわよ! こんな麗にも所属されない下っ端に血判を見せるだけに飽き足らず、入れるですって!? 確かに逃げ足は認めてあげる。けれど、その逃げ足でいざという時に紅麗様からも逃げられるに決まっている!!」
 雷覇も黙ってこそいるが、音遠と同じような心持なのはその目を見ればわかる。彼も横島の実力は聞いていた。逃げ足の早い下っ端。顔が広く、多くのものが知る。そしてどんな人物なのかもまた、知っていた。それでもまだ、自分たちとともに歩むには実力が足りない。磁生が何を考えているのか、彼はわからなかった。
 わからないのは横島も同じだった。血判の存在には驚いたが、同時にその重さも理解した。顔が広いからこそ、麗にはどんな人物が集まっているかを知っている。磁生のような存在は麗においてむしろ稀有な存在であることも知っている。そして、紅麗がどれだけ彼らを信頼しているかも。だからこそわからなかった。磁生が何を考えているのか。
「いや、違う。お前らの言う通りこいつは逃げ足だけで実力もない、顔が広いだけの下っ端だ。紅麗様を守るには力不足だ」
「なら何故!?」
「戦うということ以外にもできることはある。俺たちは戦うことしか能がない。元々メイドだった音遠はまあ、あれだが、基本的にはそうだ。音遠、お前の言ういざという時に俺たちが盾になるのはいい。だが紅麗様の命を助けることはできるか?」
「それならわたしが!!」
「だからいざという時って言っているだろ。こいつの性格と逃げ足は俺が保証する。だから同じ誓いを立てることはしなくても、隣で戦うわけではないが、紅麗様のためにこいつのことは知っていてもらいたかった。それだけだ!」
「つまり、顔見せということですね。そういうことならわかりました。認めるか認めないかは置いて」
「言っておくがわたしは認めないからな。こんな下っ端に何ができる? もし紅麗様に害為すことがあればわたしがこいつを殺してやる!!」
「わかった、いまはそれでいい。じゃあ、顔見せついでに飲みに行くか」
「いかない」
「行きません」
「嫌だ!」
 当事者であるはずの自分を置いて話が進んでいることはわかったが、磁生のその言葉だけはわかった横島は雷覇、音遠と同じ言葉を返す。そして――



「…………!! …………!!」
「んあ?」
「忠夫君!」
 雷覇に身体を揺らされて横島は懐かしい夢から目を覚ました。そして、同時にあのあと磁生の愚痴に付き合って朝まで過ごしたことを思い出し、顔を大きく顰めた。床で寝ていたからか固まってしまっている身体を大きく伸びをすることでほぐし、自分を起こした青年をみる。
「雷覇、お前って何歳だっけ?」
「どうしたんです? いきなり。僕は二十七歳ですけど」
「いや、なんでもない。それより戻ってきたのか」
 夢で見たあの頃と全く変わっていない、高校生といっても納得できるその顔を寝ぼけた顔でボーっとみながら言った。
「はい、ただいま戻りました」
「そうか」
 大丈夫だったか、とは聞かない。雷覇の表情をみればあまり好ましい状況ではないことはわかりきっているからだ。
「それより、寝るならきちんとベッドの上で寝たほうがいいと思いますよ。試合結果は聞きました。明日は試合、ありますよね?」
 その言葉を聞いた瞬間、夢の続きを思い出した時以上に横島の表情が大きく崩れた。床で寝ていたことを注意されたことに関してではない。久しぶりに戦いという空気を味わって疲れて眠ってしまった自分に非があるのだ。問題は明日の試合である。
「明日の試合か……」
「はい。次はBブロック代表決定戦。相手は麗(鉄)、つまりは磁生です」
 何のこともなく言っているが、相手は幾度となく横島を飲みという名の愚痴に付き合わせたあの磁生である。酔っぱらった磁生に何度も吹っ飛ばされたことのある横島としては、試合として戦うことは断固として拒否したいことだった。
「明日の試合」
「却下です」
「え、俺まだ何も言っていないんだけど!!」
「明日の試合、磁生の相手は忠夫君にお願いします」
「い、嫌だ!! 勝てるわけなんかないやろーが!!」
「紅麗様からの命令です。それにいまの名目上、僕の部下ですよね?」
「ぐ……」
 立場を表に出されてしまえばもう何も言えない。最後の手段は物理的に逃げることだが、いくら逃げ足に自信があったとしても目の前でにこにこと笑っている雷覇から逃げることは不可能だ。何より、紅麗が楽しそうに雷覇に告げる光景が思い浮かび、ここで逃げれば非常に面倒なことになると想像した瞬間、逃げるという選択肢も消えた。
 しかし横島忠夫は諦めの悪い男である。まだ可能性は残されていると口を開き――
「ちなみに今回、忠夫君には特別に紅麗様からいくつかの魔導具を貸し与えられるそうですよ。さすがに丸腰ではなにもできないでしょうし」
「げ」
 手段さえあればたとえ紅麗であってもいくらかの時間は持ち堪えられることは知られている。魔導具が貸し与えられることで実力的に不可能であるという言い訳は封じられた。
「今回の裏武と――」
「今回の裏武闘殺陣の目的はAブロックにいる火影というチームにいる治癒の少女です。ですが、それは関係ありません。今回の命令は全て、紅麗様のもの。どんな理由があれ、拒否することはできませんよ?」
 理由からの拒否も封じられた。
「いたたたた!!」
「いますぐ治療班を呼びますか? もし何も異常がなかったらその時は紅麗様にきちんと報告しますからね」
「すみません、気のせいでした」
 言い訳を全て封じられた横島にはもう何もできない。ただ、にこにこと人の良さそうな笑みを浮かべる目の前の青年をじっとみつめることしかできないのだった。


+           *         +


雷覇の年齢は勝手に予想しました。




[41758] 裏武闘殺陣編 三日目が終わって……
Name: - 鴇時 -◆778081fd ID:60ccd5ed
Date: 2015/12/21 04:49

 紅麗の申し出によって開催されることとなった第三回裏武闘殺陣も四日目となった。総参加チームは六十四チーム。ある者は死に、ある者は涙を呑んで敗退し、四日目となった今日、残るはたった八チーム。
 A、B、C、Dと四つのブロックにわかれ戦っていたそれぞれのチームはそれぞれのブロックの代表チームを選出するため試合へ臨む。

 Aブロック会場、代表決定戦。
一回戦では会場にいた全ての観客を裏切って、裏の世界では名の知れた格闘集団の空を破った。
二回戦は紅麗の部下、十神衆の一人、幻獣朗が率いる麗(幻)。幻獣朗の心霊医術によってメンバー全員がその肉体を改造されて人間の域から逸脱したチーム。紅麗の元から離脱した小金井を新たにメンバーに加えながらも彼らは勝利した。
三回戦のチームは横島や磁生、雷覇とも懇意な音遠が率いる女性だけのチーム。二回戦の幻獣朗もかなりの強敵であったが、彼と同等、またはそれ以上の強さを持つ相手に二対二の戦いを挑み最初こそ不和の隙を突かれ劣勢だったものの、仲間を信じることによって勝利を得た。
そして今日、Aブロック代表決定戦の相手チームは二回戦、三回戦に続いて麗のチーム。魔元紗をリーダーとする麗(魔)。紅麗ですらその存在を知らない未知のチームである。
 八竜と呼ばれる特別な形の炎を操り、正義感溢れるリーダーの花菱烈火。烈火の幼馴染で他の男どもに負けないくらい男気にあふれたチームの紅一点、霧沢風子。自称烈火のライバルであり、風子に恋するタフネスなパワーファイターの石島土門。烈火たちとは一つ年上で彼らの中で最も闇に近い水鏡凍季也。兄のように慕っていた紅麗の元を離れ、本当の紅麗を求める小金井薫。
 正々堂々、その男気に惚れた多くの観客たちがファンになったチーム、火影は治癒の力を持った少女を守るためにたとえ相手が誰だろうが勝たなければならない。それがたとえ紅麗であっても。

『さあ、泣いても笑っても今日の戦いでAブロックの代表が決まります!! 準決勝にコマを進めるのは果たして火影か!? それとも麗(魔)か!? 解説は昨日の戦いで負傷したことで欠場することとなった水鏡選手と――』
「こんな場所で試合を見られるなんて、えらい特等席やなー! ちゅーことで、たまたま暇やったこのジョーカーが解説したるわ。氷のにーちゃんよろしゅうなー」
 ピエロと死神を組み合わせたような関西弁の男が水鏡の隣に座ってあいさつをする。
「こらっ! そんなトランプ野郎と一緒になにやっとんのじゃ!!」
「彼女の言う通り、僕は昨日の戦いの傷がまだ癒えていないんだ。明日の試合に備えて、今日はここで君たちの試合を見させてもらうよ」
「自分は昨日試合見とって、兄ちゃんのファンになってしもうてん。でも魔導具? ゆうたっけ。その道具を使った試合は常人には解説なしやと面白さ半減。だから氷のにーちゃんと一緒に解説しようって出てきたわけやねん!!」
 ジョーカーの言葉はともかく、水鏡にしては珍しい直線的な信頼の言葉に烈火たちの指揮は高まる。たとえ戦力的に大きくマイナスであっても、仲間の信頼ほど彼らを強くするものはない。
『では、Bコーナーより麗(魔)の入場です!! 本当は火影も入場の合図で入ってきてほしかったんですけど……』
 馬耳のアクセサリをつけたそばかすの少女、審判の亜馬樹によって火影が入ってきた入場口の反対から麗(魔)の面々があらわれる。
 かなり体格のいい部類に入る土門よりも二回り以上も大きな身体の餓紗喰。リングの上に突然あらわれ、包帯にくるまった月白。小金井とそっくりに変装していた火車丸。そして、地面をすり抜けるように出てきたリーダーの魔元紗。
 戦う順番も決め、いま、先鋒のメンバーがリングの上に上がる。
 火影からは小金井薫。麗(魔)からは月白。会場の誰もが、どんな戦いをするのか期待していた。




 Bブロック会場、代表決定戦。
 一回戦、二回戦ではたった一人で敵チームを瞬殺。もう一人は三回戦で初めて試合に出るも予想外の活躍で勝ち進んだ。いままでの対戦相手は火影と比べるとかなり良かったとも言えた。しかし今日の対戦相手は麗の中で紅麗を除き最強とも言われる磁生率いる麗(魔)。彼らは今日の試合でこそ本当の姿をあらわすのかもしれない。
 とぼけた表情には似合わない実力を秘めた雷覇。どこにでもいる間抜けな青年にしか見えない横島忠夫。たった二人だけのチームでありながら、その人数の少なさを物ともしない実力を持った麗(雷)。彼らも火影と同じく負けられない理由がある。それがたとえどんなにくだらない理由でも、彼ら……というよりも横島にとってこの試合は負けられなかった。

「よお、来たか」
「はい。今日はよろしくお願いしますね、磁生!」
 Bブロック会場にあらわれた両チームには全くピリピリとしたはなく、にこやかに握手をしている。なんともクリーンな雰囲気に、麗同士の試合に大きく期待を寄せていた観客たちはなんともいえない気持ちになった。
「忠夫、逃げないで来たのか。俺はこれでも今日の試合が一番の楽しみなんだぜ?」
「うへぇ。お手柔らかに……」
「言っておくが、適当に戦ってそのまま負けるとかはなしだからよ!」
 戦うのが楽しみで仕方がないという風に、横島へ笑いかける磁生はチラッと観客の方を見る。磁生の言う通り適当なところまで戦って降参しようとしていた横島はつられて観客席の方を見て、そして――。
「な? 頑張ろうぜ?」
「うげぇ」
 観客席の端に、恐ろしく見覚えのあるひょっとこの仮面を被った、これまた見覚えのある黒い服装の青年がたっていた。あのひょっとこの仮面は確かに自分の手作りのものだ。そしてそれをあげた相手はただ一人。
「紅麗様がいるのでは、僕も張り切って戦わなければなりませんね」
「なら俺の代わりに戦ってくれよ!」
 横島の悲痛な叫びも虚しく、戦いの時は刻一刻と近づいていた。




 Cブロック会場、代表決定戦。
 激闘の末、代表チームが決定した。




 Dブロック会場、代表決定戦。
 紅麗がいない麗(紅)がどの会場よりも早く代表チームに決定した。




 様々な思惑が絡む中で準決勝に進むために彼らは戦う。たとえ、その結果がどうなったとしても。









[41758] 裏武闘殺陣編 横島VS磁生(前編)
Name: - 鴇時 -◆778081fd ID:60ccd5ed
Date: 2015/12/28 19:07

 裏武闘殺陣四日目、Bブロック会場では二人の男がリングの上でにらみ合っていた。
 磁双刀と呼ばれる対になっている刀を持っているのは麗(鉄)のリーダー磁生。麗の十神衆の中でも最強と呼ばれる男だ。対するは高校生くらいの少年だ。無手のまま磁生の動きに反応する麗(雷)の横島。真剣な二人とは逆に、観客たちの目は非常に冷めていた。
 Bブロック代表決定戦、先鋒は麗(鉄)からは僧のような外見の|雁鉄《ガンテツ》、麗(雷)からはリーダーの雷覇が出た。結果は瞬殺。いままで雷覇が相対した敵チームのように、雁鉄は何もすることができずにリングの上に倒れ伏したのであった。同じ麗であっても、磁生と同じ十神衆の雷覇と磁生の部下である麗兵隊の雁鉄では、その力の差は歴然だ。麗(鉄)の続く砂鉄もまた、結果は同じだった。
 Bブロック会場で麗(雷)と麗(鉄)の試合をみてきていた観客たちは期待した。磁生も雷覇も、いままでの試合で彼らはその力を全てみせていたわけではない。出た試合は全て、相手は何もすることができずに負けるのだ。そんな雷覇と磁生の試合はどんなに激しい戦いになるのかと期待をせずにはいられなかった。しかし――
「じゃあ、僕はここで棄権しますね」
『え、棄権ですか? 勝ち抜きですから次の方が負けた場合、チームの負けが決定してしまいますが……』
「はい、それで大丈夫です。僕は忠夫君を信じていますから!」
 しかし、期待の試合がみられないどころか雷覇の代わりに出てきたのはどうみても情けない少年である。三回戦での戦いで、その力の一端を示した彼に対する観客たちの視線は非常に冷たい。観客の暴動を敵チームである鎖悪架子に鎮めてもらい、卑怯な手段で勝ち上がった情けないやつ、それが現在の彼の評価だ。確かに夜子魯の矢を避け切ったその回避能力は認められている。しかし裏世界にも関わらず正々堂々の戦いを好む観客たちは逃げてばかりの横島の戦い方を嫌った。横島を信じるという雷覇の手前、前日のようにブーイングは起きないがそれでも彼らの態度にその気持ちはあらわれていた。
「はっはっは、嫌われているなー、お前も」
「うっせえ! 俺が何をしたんだってゆーんだ!!」
「ま、お前の今一番の敵は目の前にいる俺だからな。観客の目なんて今更気にしねーか!」
「何でそんなに楽しそうにしているんだよ……!」
 そんな観客たちの視線も気にしているようで、その実二人とも目の前の相手に集中している。観客たちの応援で鼓舞されるような人間ならともかく、磁生は自分が楽しく戦えればいい。横島は周りが敵であることに慣れているからか気にしている様子はなかった。彼らにとって重要なのはたった一つ、観客席で腹を抱えているひょっとこである。その正体がDブロックで戦っているはずの麗(紅)のリーダー紅麗であるなどと、誰が考えようか。横島が観客から嫌われている様子を、腹を抱えて笑うひょっとこという異様な存在であっても、無様な姿をみせられないというプレッシャーがあるのだ。
「くくく、ふふ、はーっはっは! アイツ、嫌われすぎ……あー、お腹痛い」
 そして、もう一人、雷覇の側でお腹を抱えている女性がここに。
「音遠、こっちへ来たんですか? Aブロックの試合は……」
「なんでわたしが負けたチームの試合を見なければならないのよ。紅麗様が気にしている火影はともかく、麗(魔)っていうのはわたしも聞いたことがないやつらだけど、あんたと磁生が出る試合の方が気になるに決まっているじゃない。それに、なんとなく紅麗様がここに来ているような気がするのよね。どこにいるか知らない?」
 きょろきょろと紅麗の姿を探す音遠は、目に入った横島たちの様子を見て笑いをかみ殺す。彼女がここにいるのは紅麗が好きすぎるためだ。この会場にいることをただの勘で察し、本当は気になっているだろうAブロックの試合を見ずにここまで来たのだ。目に入っているはずのひょっとこ紅麗を認識できないのは、その崇高的な想いからか。あるいは認めたくないだけなのかもしれない。
 審判の注意など気にせずに雷覇の隣で試合を観戦することにした音遠は、先ほどの笑いなどなかったかのように試合開始の言葉を待つ。磁生の実力はこの会場にいる全員と言ってもいいほどの人間が認めている。そして、かなり見下している横島を認めている数少ない人間、音遠と雷覇はどんな戦いになるのか期待してリングの上をただまっすぐ見つめる。
『それでは麗(鉄)磁生! 麗(雷)横島! 試合を始めてください!』
 試合開始の言葉から最初に動きをみせたのは横島だった。一見かなり無駄のある動きで、しかしどんな攻撃にも対応できるような動きで磁生との距離を詰める。そして、磁生の足もとに蹴りを放ち――その直前で再び距離をとった。先ほどまで横島がいた場所に向かって磁生が右手に持った刀を振り下ろしていた。もし蹴りを優先していたとしたら、一撃で倒れるということにはならなくても、致命傷と言ってもいいほどの傷を負っていただろう。
「相変わらず無駄が多い動きだな、おい。俺が教えたことを忘れたか?」
「のんきに何を言っているんだよ!! 避けなきゃ死んでいたぞ!?」
「避けたんだからいいじゃねーか。さっさと続き、やろうぜ?」
 たった一瞬のやりとり。裏の人間ならば、相手の攻撃を察知して避けることができない者はほとんどいないだろう。けれど、相手が磁生だった場合においては同じとは言えない。何の気なしに放たれた一撃が致命傷になりかねない。攻撃を防げば、防いだ剣や盾ごと斬られ、避けるにも磁生の気迫に身体を鈍らせて斬られてしまう者はいままでに多くいた。並みの実力者であれば磁生からの攻撃を察知することもできない。観客席にいる一部の実力を持つ者たちは横島への認識を改めることになった。ほとんどの者は大げさに避けたことを臆病だと捉えただけだったが。
「今度は、俺から行くか」
 磁生はその身体からは想像もつかないくらいの俊敏さで、横島との距離を一瞬で詰め、猛攻撃を始める。彼自身にとってはこの攻撃で傷を与えようとも、倒そうとする意志もないだろう。それでも一人を真っ二つにするには十分の威力があるその攻撃は一撃では終わらず、何度も横島に襲い掛かる。
 だがその攻撃は一度も横島には当たらない。まるでどこに攻撃が来るのかを知っているかのように大きく体を動かして攻撃を避ける。
「いつも不思議だったんだがよ、なんでそんなに無駄みたいな動きをしているのに当たらないんだろうな」
「一発でも当たったら死ぬからだよ! 俺の攻撃は当たっても威力がなさそうなのにこっちは当たったら死ぬとかなんて理不尽なんだ。しかも棄権もできないとか」
 観客席にいるひょっとこをチラリと流し見ながら磁生の攻撃を避け続ける横島。磁生の本気を受けたことがあるためにこんな小手調べ程度の攻撃なら目を瞑っていても避けられる。そんなことをしたら磁生は喜ぶだろうし、観客席も怖いしでやるつもりは全くないが。
「そろそろ身体も温まってきたか? この程度の攻撃じゃ当たらないことくらいわかっているからよ。そろそろ出すぜ?」
「な、何をでしょうか……?」
「え、本気」
 観客に動揺が走る。いままでの試合の中で、磁生は一度も本気を出していない。言い方は悪いが小手調べ程度で負けるくらいの実力のチームしかいなかったのだ。気迫だけで勝てないと悟り、負けを認める者さえいた。
 そんな磁生の本気が見られるのだ。ただ避けるしか能がない雷覇の腰きんちゃくとはいえ、期待は高まるしかない。
「こいつの能力、知っているだろ?」
「磁双刀……」
 いままでの攻撃は二本の磁双刀の右手に持ったN刀のみを用いての攻撃だった。左手に持ったS刀は一度もつかっていない。さきほどまではまさしく小手調べだったということだ。
「刀を使うだけが磁生の強さならばあんなに恐れられていないわ。それだけならわたしでもなんとか……。不協和音がないいまだとさすがに厳しいけど」
「磁双刀を完全につかった磁生とは、僕が戦っても勝てるかどうか……。忠夫君、骨は拾います!」
「くぉら!! 何を物騒な……ってうわぁ!」
 音遠と雷覇の会話に反応した横島に向かって磁生の刀が飛ぶ。勢いよく投げられたS刀は横島が避ける必要もないくらい離れた場所を通り過ぎた。
「磁生はノーコンなのか!?」
「本気を出すとか言って、刀投げただけじゃねーか!! そんな雑魚、さっさと片付けちまえよ!!」
「そうよ! 雷覇くんにくっつく虫なんか刀の錆にしちゃいなさいよー!」
 一部おかしな発言も混ざっているが、横島の後ろに落ちたS刀を拾う様子もない磁生に罵声が飛ぶ。
その声を無視して磁生は残ったN刀で攻撃をしかける。本気になると言った言葉は嘘ではないようで、先ほどよりもその攻撃は速く、力強い。横島に避けられたN刀は風を切り、その先にある観客席の一部を破壊した。足もとを攻撃したその攻撃はリング上を大きく揺らして破壊、避け続ける横島の体勢を崩した。 
「引き寄せよ、N刀!!」
 その瞬間、リングの外に落ちていたS刀がN刀に向かって飛ぶ。彼の持つ魔導具、双磁刀の能力はSとN、二本の刀が引き合う力を持つ、魔導具の武器の中ではシンプルといってもいい能力だ。能力だけを考えれば横島が戦った鎖悪架子の夜子魯のつかっていた明王の方がいいだろう。だが、シンプルがゆえに磁生の力量と合わさって応用がききやすい。
このままでは当然、N刀に引き寄せられたS刀はその間にいる横島を貫いて磁生の元へ戻る。体勢が崩れたいま、避けるのはかなり難しい。無理やり体を捻って避けたとしても、次に来るのは両手に刀を持った磁生の攻撃だ。拙い体勢のまま、破壊されてバランスを取るのが難しいリングの上でその攻撃を避け続けるのは厳しい。
「終わりだ!!」
「くそ!!」
 そして、無理やり身体を捻ってS刀を避けた横島へと今度は両手に刀を携えた磁生の攻撃が襲い掛かるのであった。






[41758] 裏武闘殺陣編 横島VS磁生(後編)
Name: - 鴇時 -◆778081fd ID:60ccd5ed
Date: 2015/12/28 19:08

 横島に向かってS刀が飛んでいく。体勢が崩れたまま無理やりに身体を捻ったことで紙一重でその攻撃を避けることに成功する。
「終わりだ!」
 そして、慌てて身体を起こそうとした横島へ、今度こそ絶対に避けられない攻撃が迫る。飛んできたS刀を掴み、その勢いそのままに振り下ろされる刀は確実に仕留めるために横島の首を狙っていた。
 ドゴォン!!
 大きな音とともにリングが破壊され、土煙が舞い上がる。視界がひらける頃には切断された横島の首が転がっていることを、観客にいる誰もが予想した。リングの側で試合を見ている雷覇や音遠でさえ、死にはしていないとは思ったがこの試合は終わったと思っていた。
「へぇ」
 ただ一人、その攻撃をした磁生だけは攻撃の感触から全く違うことを考えた。
「紅麗様からいくつか魔導具を受け取ったと聞いたが、もしかしてそれか?」
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。し、死ぬところだったー!!」
 土煙がはれた時観客たちが目にしたのは大きく破壊されたリングと、そのすぐ近くで胸のあたりを抑えて冷や汗を流している横島だった。彼の両手には籠手のようなものがはめられており、おそらくそれが命からがら生きていられた理由なのだろう。
「麗兵隊が持っているのを見たことがあるが、いまのを避けきれるだけの魔導具だったか?」
「こっちの手の内を簡単にあかすわけねーだろ!! この魔導具さえあれば、あとはお前なんて簡単に倒せるぜ!!」
 リングで磁生から最も離れた場所で胸を張って威張り散らす横島。その身体は直接攻撃を受けたわけではないにしろ、地面を転がったことでボロボロになっていた。また、一度攻撃を受ければ終わるという状況によって精神的にも肉体的にも大きく疲労している。
「確か、移動用の魔導具だったはず。あれで磁生を倒すことなんてできるのでしょうか?」
 雷覇の言葉通り、彼が両手にはめた魔導具は移動につかわれる攻撃にはつかわれないものだ。名前は【攫手】。森の中で木から木へ飛び移ることを目的とした、何かを掴んで移動するタイプの魔導具である。手首までを覆う籠手の形をしており、遠くのものをつかむために伸ばすことも可能。先ほどはリングを掴んで無理やり移動した。掴む力は強いが攻撃には向かないものであり、当然磁生には通用しない。
「で、その爪で俺を倒すつもりなのか? 接近戦は好きだぜ?」
「そりゃそうだろうな!!」
 こちらが何をするのかを期待してニヤニヤと笑う磁生の様子を窺いながら考える。ここがリングの上でなければ! このままでは死んでしまう! そんな考えばかりが頭をよぎる。
 そもそもこの大会に出場しなければ磁生と戦うことがなかったが、焦った横島にはそうれすらわからない。
(どうしてもっと強い魔導具くれんかったんや! 紅麗のアホー!!)
 とうとう魔導具を用意してくれた紅麗にまで文句を言い始めた。確かに手にある【攫手】は攻撃用のものではないし、借り受けたものに強力な能力をもつものは一つもない。紅麗が強い魔導具を貸さなかったのには二つ理由がある。一つ目は横島の地位が低いこと。麗の基本的なルールとして、地位の高い者に対してのみ魔導具を与えられる。一時的に麗に所属しているとはいえ魔導具を複数貸し与えられていることだけでもかなり破格の扱いだ。もう一つの理由は試合としてつまらなくなってしまうからだ。強い武器を持っているだけで勝てる試合ではないが、強い武器は勝つための一つの要因だ。オーディエンスを盛り上げるために麗のチームをいくつか参加させているというのに、強い武器を与えるのは矛盾する。紅麗は強い武器を用意しなかったのではなく用意できなかったのだ。
 感情的な想いから離れ冷静に考えた末、横島がたどりついたのは勝てない、という結論である。紅麗から借りた魔導具、いまの実力、作戦、何をやっても磁生に勝つことは無理だ。大きく開きすぎた力の差は、横島が勝利をあきらめるには十分だった。
「ふむ、このまま待っていても何もなさそうだな。これでも期待していたんだがな、残念だ。じゃあ、手早く終わらせてやる!!」
 磁生の目には横島への失望が浮かぶ。彼の知っている横島はもっと諦めが悪い。最後の最後まで手段を探す。だが今目の前にいる横島はもう諦めてしまっている。期待が大きかった分、失望も大きい。
 もう時間はない。磁生が迫る。対応策もない。それでもなんとか逃げようとリングの隅へ逃げる、追い詰められる。勝機もない、勝機を探す前に諦めてしまっているからだ。目の前に立った磁生が右手のN刀を振り上げるのが目に入る。降参の言葉を言うこともできず、あとはこの刀を受け入れ――走馬灯のように横島の頭にいままでの記憶が一瞬で流れていく。
「諦め……られるかぁー!!」
 まだ死にたくない、死んではいけないこと思い出し、固まっていた身体を動かす。【攫手】を伸ばし、四隅にある石柱の一つを掴む。
「うぉぉぉおおー!」
 その身体を動かすには時間が足りない。そのために横島はもう片方の【攫手】で磁生の視界を塞ぐ。磁生に攻撃としては通用しなくても掌を覆う籠手の形の【攫手】であれば十分だ。
「うがぁぁぁああ!!」
 視界を塞いだだけでなく、何かを仕込んでいたようで磁生は顔を抑えて怯む。その痛みが何なのかに分かる前に、今度は身体が重くなっていることに気が付く。それは横島が前日の試合でつかっていた物を重くする魔導具、【重石】だ。重いとはいえ磁生ほど鍛えていればあまり変わらない。横島の回避力を考えれば少しの制限ですら大きな隙になりかねない。まずは【重石】を取り出して――と考えたあたりでガツンと大きな衝撃が頭にはしり、磁生は意識を失った。
『じ、磁生ダウンです! 勝者、横島忠夫!』
 Bブロック代表決定戦。観客が期待した磁生VS雷覇の試合は叶わなかった。代わりに出てきたのは情けない様子の青年。誰もが磁生の圧倒的勝利を予想した試合は、誰もが予想しなかった磁生の負けという結果となった。
 激しい戦いの末の決着。その光景を目にした観客たちは、倒れたまま起き上がらない磁生と、激しく息をきらしてリングの上に立っている横島を見比べ、叫ぶ。
「「「ふざけんな! こんなバカなことがあるかー!!」」」
 結果に納得いかずに声を上げた。観客がどう思おうと結果は結果、勝利は覆らない。そして、横島の勝利により――
『麗(雷)の全勝によって、準決勝進出です!』
 ――麗(雷)は準決勝へコマを進めたのだった。

 試合が終わり、会場の外。観客たちに襲われないようにすぐに会場から離れた横島を待っていたのは紅麗だった。その顔には、いつもの仮面が身に着けられている。
「ご苦労だった。まさか勝てるとは思わなかった」
「俺は死ぬところだったんだぞ! そんな一言で片づけられてたまるか!!」
 そんな必死な様子の横島だが、実質的に今回の試合では磁生から一撃も攻撃を受けずに勝利したため身体に傷はない。もし一撃でも受けていたらその時点でこの世にはいなかっただろうが。
「それで、借りた魔導具は?」
「持っていて構わない。どうせいまは持ち主がいないからな。誰が持っていてもかまわない」
「じゃあ、俺は疲れているから控室で寝るわ。明日も試合あるし」
「ああ、それなら大丈夫だ。明日の試合は出なくてもいい」
「マジで!? ふっふっふ、これで俺も自由じゃあー!」
 喜びのあまり本当に小躍りする横島。先ほどは疲れてげっそりしていたというのに現金なものだ。
「それと今回磁生に勝ったことで褒美として特別に麗兵隊、雷覇の部下に配属する。雷覇の部下は志願するものが多いからな、光栄だと思え」
「もちろん断「決定事項だ」る! はへ?」
 先ほどの喜びはどこへいったのか、自由への喜びから血色のいい顔が今度はげっそりと土器色にまで変わっている。
 いままで紅麗が無理やりにでも横島を部下にしなかったのは本人が望まなかったから、などという人情的な理由からではない。何の実績ももたない横島をとりたてれば騒ぐ連中がいるとわかっていたからだ。だからといって麗の低い地位に配属した場合、横島はその地位に甘んじるだろう。それでは何も変わらない。今回の裏武闘殺陣は治癒の少女を手に入れることの他に横島を部下にすることを目的としていたのだ。雷覇や磁生、音遠までもが協力し、場を整えた。そして手段はどうあれ十神衆最強ともいわれる磁生に勝つという実績を得た。そのことに紅麗は喜びを隠しきれないでいた。
「なんか一気に疲れが来た。控室に帰って寝るわ」
「そうか」
 紅麗にここまで思われているという貴重さを横島は自覚していなかった。紅麗が信頼する三人に協力させ、横島にいらぬ横やりが入らないように配慮し、部下にした。紅麗のその想いは一体どこから来ているのだろうか。
「紅麗様」
「なんだ」
「Aブロックについてのご報告を」
 とぼとぼと歩く横島を見送った紅麗の側に森の部下があらわれる。
「話せ」
「Aブロック代表は火影に決定しました」
「そうか。下がれ」
 Aブロック会場の結果だけを聞いた紅麗は今度こそ身体からあふれ出る感情を抑えられなかった。細かい試合内容はどうでもいい。ただ結果として火影が勝ち上がった。それだけがわかればよかった。
「ふふ、ふはははは!」
 仮面の下から漏れ出る笑い声。その想いは喜びか期待か、あるいは別の感情かもしれない。その想いは、紅麗本人でさえわからないのかも、しれない。

「勝ちましたね」
「ああ、いい勝負はすると思っていたが……」
 横島と紅麗が話をしていた時と同じ頃、まだ会場の中にいた雷覇と音遠は呆然としていた。結果は結果として受け止められてはいる。しかしその手段をみてしまえばなんとも言えない微妙な気持ちになってしまう。
 横島と相対していた磁生にはわからなかっただろうが、リングの側で試合をみていた二人には横島がどうやって勝ったのかがよくみえた。
 磁生の攻撃が迫った時、横島は【攫手】で逃げようとした。片手は石柱に伸ばし、もう片方は磁生の視界を塞ぐために彼の顔へと伸ばした。だが、磁生の顔に伸ばした【攫手】は視界を一時的に塞ぐものではなかった。磁生の視界がひらけた時、その顔は大きく腫れあがり、目からは大量の涙があふれていた。おそらく【攫手】には刺激物を仕込んでいたのだろう。戦いが強く、痛みに強いとはいえそれは外的な傷や打撲といった痛み。目や肌の痛みにはあまり耐性がなかったのだろう。そうして攻撃を避けた横島は確実に磁生の動きを封じるためにその服のうちに【重石】を仕込む。本人にとっては理解不能の痛みと【重石】によって磁生の行動を制限した横島は【攫手】をつかって磁生の頭を超すほど大きく飛び上がり、いつの間にか手に持っていた弓で磁生をタコ殴りにした。これが、横島が磁生の意識を奪った手段である。正々堂々を好む気質の輩が多い観客は、逃げて視界を奪い、弓で殴るという行為を認められなったものが多くいたのだ。
「僕はその時紅麗様の指令に従っていたため忠夫君の試合はみられなかったのですが、あの弓、魔導具ですよね?」
「確か【明王】とかいう、矢が手元に戻って来る魔導具のはず。つかうのにはかなり強い力が必要になるとか。それだけ強い力で弦を引く必要がある魔導具なら当然硬いか」
「手元に取り出したのは【蔵王】でしょうね」
 【蔵王】とは、火影忍軍が魔導具をつかっていた時代、最も多くの者が所有した魔導具であることがわかっている。魔導具の構造や力の正体は謎に包まれているが、強力な魔導具ほどその数は少なく、大した力を持たない魔導具であれば多くの数存在していたことがわかっている。【蔵王】はかつて多くの者が所有していたと述べた通り、強力な力を持たない。その能力は収納能力。異次元にものを収納する力だ。便利な力のように思えるが、その収納できるものは魔導具に限られているため、魔導具を持たない者にとっては何の意味もない。横島は【明王】をこの【蔵王】に収納していたのだろう。
「紅麗様が待っていることですし、帰りましょうか」
「あ、ああ。そうだね」
ボーっとしていてもしょうがない。先日までと違ってもうこの会場で試合は行われないのだ。二人は横島の勝ち方に釈然としないものを抱えながら会場を後にするのだった。

 裏武闘殺陣も四日目を終えた。残るは準決勝戦と決勝戦のみ。勝つのはどのチームか。




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